「〜やけど」vs.「〜やが」

「〜やが」という言い方、私も気になっていた。

いわゆる関西弁の特徴の一つとして、断定の「だ」が「や」になるというものがある。「そうだ」→「そうや」、「なぜだ」→「なんでや」といった具合である。これで関西風の表記になりそうや。
しかし、どうにも違和感があったのが、たとえば雑誌に載っているダウンタウン松本の連載記事の中で、もちろんいつもの松本の言葉に近いのだが、←今ここで使ったような「だが」を「やが」と書いていることがあったりする。それ以外にも、雑誌やスポーツ紙などで使われるメディア関西弁では「だが」が「やが」と書かれていることが非常に多い。
そして、関西弁風のブログなどでも「やが」という言葉が使われていることがある。
ところが、自分は「やが」という言葉を使ったことがないのである。「近いんやけど」とは言っても「近いんやが」とは絶対に言わない。そのため、「やが」というのは関西弁もどきの書き言葉ではないかと考えた。

絵文録ことのは: 関西人250人に聞きました。「やが」という関西弁はほとんど使われてないんやけど。

私は大阪弁(のうちの摂津方言に属するはず)をしゃべる。ブログなどの文章は標準語(共通語)で書いているつもりだが、友人へのメールでは大阪弁になることもある。しかしいずれの場合にも「〜やが」は使わない。標準語(共通語)で書く時は「〜だが」、大阪弁でしゃべる/書く時は「〜やけど」である。

関西人のブログやメールでたまに「〜やが」を見かけるので、少し気になっていた。この言い方は以下のようにして発生したのではないかと思っている。

  • そもそも「〜が」というのは「〜けど」よりも硬い言い方で、普通は書き言葉でしか使わない
  • たとえば東京系の言葉をしゃべる人(自分が「標準語」をしゃべっていると言ったりする人)は、話し言葉は「〜だけど」のみ、書き言葉では硬い文章で「〜だが」、くだけた文章で「〜だけど」と使い分ける(「〜だが」を話し言葉で使う人は映画やドラマの中でしか見たことがない。ちなみに、「〜ですが」「〜ですけど」も同じ関係にあるが、「〜ですが」は話し言葉でも使う。「です」自体が敬語で少し硬い表現であるせいか)
  • 関西人は話し言葉では「〜やけど」、書き言葉では通常は標準語(共通語)を使うので「〜だが」となる
  • しかし関西人がくだけた書き言葉で関西の言葉を使いたいことがある。この際「〜やけど」だと方言「や」に加えて「けど」で書き言葉としてはくだけすぎになると(無意識に)思った人が、関西系の「や」に硬い「が」をつけて「〜やが」という言い方が生まれた

表にすると以下のようになる。

話し言葉 くだけた書き言葉 硬い書き言葉
東京系 〜だけど 〜だけど 〜だが
関西系 〜やけど 〜やけど
(→〜やが)
〜だが

つまり方言で文章を書こうとして、微妙なところで生まれた表現だと思うのである。それにしても、無理に書き言葉にしようとしているのでやはり変だと思う。

上記「ことのは」では人力検索はてなアンケートをされている。その結果の1つとして以下のようなことになっていた。

少ないが「やが」しか使わん、「やけど」は使わん、という人たちが多かったのが摂津・船場丹波の3地域。つまり、大阪北部から兵庫県南東部・東部にかけて「やが」を使う地域が固まっている。

同上(地域性は関係あるかもしれない)

これは意外だった。私は摂津地域で生まれ育ったが、「〜やが」を使う人に会った記憶がない。関西方言で書かれた文章自体をあまり見かけないのでサンプル数は多くないが、摂津地域でも「〜やが」はほとんど使わないように思う。

ちなみに、上記アンケートのコメント欄に出てくる「歩いてんけど」という言い方は私もよく使うが、これが摂津方言だとは知らなかった。関西では一般的に使われているのかと思ってたんやが(ううっ、試しに使ってみるとやっぱり気持ち悪い)。