陰日向に咲く(劇団ひとり)

陰日向に咲く

陰日向に咲く

「なさけない系」と勝手に名づけている分野がある。なさけない人の行動や心の動きを描写した歌や小説やマンガのことである。なぜかそういう作品がとても好きである。

歌でいうと、今思い出すのはユニコーン「エレジー」(「ケダモノの嵐」収録。もてない男が女の子を「部屋に遊びにおいでよ」と誘うせつない歌。渡辺満里奈が一言だけ参加)やスガシカオ「そろそろいかなくちゃ」(「4 FLUSHER」収録。「♪さえない日々だとは思う いろんなこと考えちゃいるけど」)。こんな曲を知っている人はほとんどいないと思うが、メジャーな曲が思い浮かばない。

松任谷由実全盛のころ、「彼女の歌を聴いて女の子たちは『私のことを歌っている』と思うのだ」と言われたものだったが、私にとっては「なさけない系」の歌は自分のことを歌っているという気にさせられる面がある。

マンガの「なさけない系」は福本伸行最強伝説黒沢」にとどめをさす。あまりにもなさけなさすぎて、第1巻を読んだところで次へ進むかどうか躊躇している。第2巻以降もあのダメダメぶりが続くのだろうか。インタビュー記事を読むと、どうも当分は続く感じである。

陰日向に咲く」は劇団ひとりの処女小説。彼の芸風はそれほど好きではないのだが、元モーニング娘。矢口真里とやっているテレビ番組「やぐちひとり」を観て頭のいい人だなと注目していた。そして最近この本がにわかに評判になっているので読んでみた。

5つの短編小説から成っていて、どれも「なさけない系」である。1つ1つがなさけなさの中にドラマを含んでいて、5編が互いに連係している。2つ目の「拝啓、僕のアイドル様」なんかには前述の「エレジー」と共通するものを感じる。夢中になってあっという間に読了。これはおもしろい。「なさけない系」が好きな人(そう自認している人が他にいるのかどうか自信ないが)にもそうでない人にもオススメである。

この人はまた小説を書くのだろうか。なんとなく、もう1作この水準を保つのはかなり難しいような気がする。予想を裏切ってまた夢中にさせてくれるのかどうか、楽しみである。